徳島の衝撃


徳島空港に到着すると、先ほど羽田で顔を合わせた営業さんのテンションがますます下がっていた。「徳島・・・本当に何もないんだ。繁華街だと紹介されたところでも、店に一人も客がいなかったりして。思わずコンビニ弁当にしちゃったよ。」ふーん、そんなもんかしらね?確かに空港から徳島駅に向かう道には背の低い建物がまばらに存在するだけで目を引くものはなかった。駅前のデパートの食堂街で食事をしたときにも、お年寄りと子供の姿だけが目立った。過疎化しているのだろうか?なぜか物価は少々高め。デパートを出ると、すぐ前にタクシーが止まっていた。しかし、見るからに怪しい雰囲気だ。タクシー会社の名前の表示はなく、黒い車体も薄汚れている。慎重な私ならば、絶対に選ばないであろうが、飛んで火にいる夏の虫のように、営業さんが引き込まれていく。車に乗ると、早くも運転手さんの様子が尋常でない。マイクのようなものを取り出すと、それを喉にあて、電子音で長々と説教のようなものが始まった。このタクシーは初乗りが安い。サービスしているのに、千円ちょっとの距離で一万円を出すのは迷惑だ。領収書がいるんだったら最初に言ってくれないと困るぞ、云々。最終料金が分からんのに、なぜ最初に領収書が出せるのか甚だ疑問ではあったが、何も書いていない領収書を我々に早々と渡し、もっといるか?と聞いてくるのである。方言と電子音とで言葉の不明瞭さは半端でなかったが、我々の困惑も物ともせず、運転手は目的地に着くまで延々としゃべり続けたのであった。すっかり気味が悪くなってしまった営業さんは、二千円を出し、釣りはいらないからと言って、すっぱり縁を切ったつもりでいた。「俺を脅して金をせびるとは…。すげぇな、徳島。」やれやれな午後の始まりなのだった。


そんな徳島にもう来ることもないわね、なんて甘く考えていたら、数週間後、上司が忙しいので手伝いに来いとの呼び出しが。どうせなら早めに入って、以前から気になっていた「大塚国際美術館」を観光しようっと。数々の有名人が結婚式を挙げたことでも有名なこの美術館は海のすぐそばにあって、リゾートムード漂う雰囲気。鳴門は徳島とは雰囲気が違うのね。こちらの美術館は世界の名画の写真を撮り、それを陶板に焼き付けて、展示してある広大な場所である。

地下はシスティーナ礼拝堂や有名な教会の内部などが再現されており、探険の楽しみもある空間だ。とにかく展示作品が多く、全て見るのに2-3時間はかかるため、すっかり腰が痛くなってしまったけれど、年代、流派別に系統だって勉強できるすばらしい美術館であることは間違いない。油絵は絵の具の厚塗りの質感、マチエールが3D的効果を出すものだが、それを平坦に表現せざるをえないことで、なんだか見覚えはあるのだけど、違う絵みたい、という作品も中にはある。それでも、世界の美術館を訪ね歩いた懐かしさがこみあげてくる空間なのである。過去の記憶との対話。こんなとき、やっぱり私を理解できるのは自分だけだなぁと思うのだよね。寂しいけど事実。入場料は三千円と少々高めではあるが、美術愛好家の皆様にはお薦めよ!ミュージアムショップでは、小型陶板画を販売しているが、ジュンク堂書店の書棚に飾ってあるのが、まさにこの陶板画であると発見。フフフ。オタクはこのようなところに楽しみを見い出すのである。そして、この美術館には観客の顔を分析し、似ている絵の登場人物を答えてくれるロボットがいるのだが、私は「画家と娘」の画家と判定された。美女すぎて、似てない…。