ななめってる太陽

斜陽 (新潮文庫)

斜陽 (新潮文庫)

先月の読書会の課題本は「斜陽」でした。この際、太宰の小説をまとめ読みしようと決めた私は、その前に「ヴィヨンの妻」と「晩年」を読了したのですが、太宰の実人生を彷彿とさせるような情けない男主人公に立腹することこの上なし。例えば「父」という作品。真冬のある寒い日、身重の妻が今日だけはお米の配給があるかもしれないから、自分が出かけている間、子供達の面倒をみるように頼むのですね。いったんは約束するのですが、女性の知り合いから遊びの誘いがきたら、ほいほい出かけてしまうのです。そして、連れ立って女のアパートに行く途中、配給の列の中にいる妻子に見つかってしまうという…、なんたる醜態。「私が妻だったら、草履を脱いで投げつけてやりたいですね。」と野蛮な意見を言うと、その場がし〜んと静まり返ってしまいました。ある男性から言わせると、フィクションだと分かっているのに、その登場人物に腹が立つ、そういう気持ちが分からないそうです。感情移入して、物語を読まないのだと。
☆☆☆
そんな訳で、自分としてはあまり面白くない気持ちで作品を読み進めていたのですが、「斜陽」は思いのほかよかったですね。やはり太宰は才能ある小説家だなぁと見直しました。こちらの読書会では事前に自分が気になった部分を数箇所見つけておき、現代文学がご専門のF先生のリードのもと、順番に発表していく、というスタイルを取っています。
私が気になったのは冒頭、お母様がスープを飲みながら、「あ。」と何かを思い出したようにいうところ。結局はなぜそう言ったのは分からないけれど、ありうる日常の「間」としてそういう記述を自然な形で取り入れるのはうまいなぁと。
F先生:かず子もその後「あ。」って言うんですよ。この母娘の微妙な分かりあえなさを表現しているのかもしれませんね。
私 (心の声):えっ…?あっ、ほんとだ。結構他にも「あ。」って言ってるよ。それにしても、これでお互いの「分かりあえなさ」を表現だなんて、深い読みだなぁ。素敵なコメント。
あと、F先生自身が思い入れのある御茶ノ水の風景の中、かず子がレニンの本を貸してくれた友人に「表紙の色が、いやだったの。」と未読のまま本を返すところを選んでいるのを聞いて。内容がイヤだとかではなく、少女の気まぐれなのか、正面切って反論しないようにはぐらかしているのか、この部分、私もとても面白いなぁって思ったものだから、わかるぅ〜、と何度も頷いてしまいました。
他の参加者の方が言うには、かず子はお母さまが亡くなった途端に、「戦闘、開始。」と宣言して、弟にもぼろかすに言われてしまうような上原との不倫の恋に落ちていくのですが、なぜ大して素敵そうに見えない彼を選んだのでしょうか?
F先生:冒険、したかったんでしょうね…。
私(心の声):わお。聞いた、聞いた?「恋は、冒険」だって!もう、F先生のコメントに萌え死ぬ〜。すっかりファンです!

次回は村上春樹の「1Q84」上巻が課題本となっております。ご興味のある方はお問い合わせ下さい。


さて、皆さんのさまざまな感想を聞いて、読みが足りなかったことを痛感した私は、その後何度も話題にのぼったところを読み直し、ついには散歩がてら、三鷹禅林寺にお墓参りに行ってまいりました。斜め向いが森鴎外のお墓であり、驚いたことには鴎外の遺書が販売されておりました。最近、「人間失格」も読み終えたところで、いろいろと考えたことがあるので、後ほどまとめてレポートを書く予定です。