漱石先生!鼻毛が出ており…

新宿の夏目坂付近に住んでいるもので、いつも身近なところに漱石先生を感じます。
牛丼屋前の「生誕の地」石碑。おそらく漱石も参拝したであろう、穴八幡宮
ちょっと歩けば、漱石山房のあった漱石公園。護国寺横の雑司ヶ谷霊園内のお墓。
作品自体を読み返す機会は少ないですが、(しかし次回の課題図書は「こころ」です。)漱石にまつわる本を読むことはあります。

私の「漱石」と「龍之介」 (ちくま文庫)

私の「漱石」と「龍之介」 (ちくま文庫)

内田百けん漱石先生に借金を依頼しに湯治先まで追いかけていくのもすごいと思ったけれど、遺品として分けてもらったという「道草」の草稿に鼻毛が丁寧に植えつけてあったという逸話に驚きました。ワガネコの苦沙弥先生さながらです。

粘着力の強い根もとの肉が、原稿紙に乾き著いて、その上から
外の紙を重ねても、毛は剥落しなかったのである。

大変長いのや、短いのを合わせて丁度十本あった内の二本は金髪。
変な癖もあるもんだと笑ってしまいました。その他、木曜会での漱石先生と弟子達とのやりとりもあって、なかなか面白い本です。武田薬品から依頼された「漱石雑話」の講演筆記なども収められております。(薬の話とは全く関係のない内容ですが。)
以前、抗胃潰瘍薬の研究をしていたとき、やっと認可が下りて販売開始となったのですが、そのときの宣伝キャラクターが胃潰瘍で亡くなった漱石先生。
あの薬、売れてるのかなぁ・・・?



もう1冊。知識人は自分の知恵を世に還元する義務があるので、大学の先生になって講義を持つのが普通と思われていた明治時代。漱石先生はどうも大学での教師稼業はお気に召さなかったようです。授業中、注意をした教え子は華厳の滝で自殺してしまうし。自分のせいかと相当悩んだこともあったのでしょう。
そして、新聞社への転職。あれほど好きな文学でさえも、仕事にしてみれば、創作の苦しみとでも申しましょうか、作品執筆中は例外なく心身の不調を引き起こしていたようです。

それで私は常からこう考えています。第一に、貴方がたは自分の個性が発展できるような場所に尻を落ち付けるべく、自分とぴたりと合った仕事を発見するまで邁進しなければ一生の不幸であると。(私の個人主義

自分がすこしく実行してきた処世の方針はどこへいったのだ。みだりに過去に執着するな。いたずらに将来に望みを託すな。満身の力をこめて現在に働け、それが私の主義である。(倫敦消息

漱石先生の文学よりも人生論をいろいろと読んでみたくなる本でした。
今の仕事に疑問を感じている人にはヒントがたくさんあるのでお薦めです。